繊維業が特定技能外国人労働者を受け入れるには、他の産業に求められる要件に追加して次の4つの要件を充たさなければなりません。
- 国際的な人権基準に適合し事業を行っていること
- 勤怠管理を電子化していること
- パートナーシップ構築宣言の実施
- 特定技能外国人の給与を月給制とする
繊維業の技能実習制度において、賃金の支払いに関する違反が多いことから、違反をなくし適正な取引を推進するために追加要件が設けられた4要件ですが、これらの中で最も対応に苦慮すると予想されるのは「国際的な人権基準に適合し事業を行っていること」という要件でしょう。
「国際的な人権基準に適合して事業を行っている」とは?
「国際的な人権基準に適合し事業を行っている」といえるためには、公開された監査要求事項等に基づき、第三者による認証・監査機関の審査を受け適合していることが必要です。
つまり、どんなに自社の労務管理等に自信があり、それが国際的な人権基準からみても問題なし、と自負する企業であったとしても第三者による認証・監査機関の審査を受け、適合していると認められていないのでなければ、対外的には国際的な人権基準に適合して事業を行っているとは認められない、ということです。(認証・監査機関の審査が必須、ということ)
ただし、第三者による認証、監査機関の審査には一定の費用がかかります。
対象として認められている認証、監査は次の通りですので、関心のある方はどの程度の費用が掛かるのかをそれぞれのホームページ等でチェックしてみるといいでしょう。
現在(2024年11月現在)の対象の認証・監査名
- GOTS
- OEKO-TEX STeP
- Bluesign
- Global Recycled Standard(GRS)
- 日本アパレルソーイング工業組合連合会ー取引行動規範ガイドライン
ちなみにこれらは、前述「公開された監査要求事項」が含まれている認証・監査であり、この公開された監査要求事項を含むものである限り、対象の認証・監査として今後追加されるものが増えていくことになります(下記参照)。
- 日本アパレル・ファッション産業協会 CSR工場監査要求事項については、近日中の公表及び改正が予定されており、対象の認証・監査として追加される可能性がある
- 経済産業省が策定を進めている繊維産業の監査要求事項・評価基準「Japan Audit Standard for Textile Industry(JASTI)」(仮称)は、令和6年度内の策定、対象追加が予定されている
このうち、特に中小規模の企業に待望論が強いのが経済産業省のJASTIです。
既に対象として認められている認証・監査は、ある程度の費用が発生することから、国が策定する基準であるだけに比較的安価な負担で済むのではないか、という期待があるからでしょう。
しかし、「公開された監査要求事項」であるためには、労働における基本的原則及び権利に関する国際労働機関宣言に掲げられた基本的権利に関する原則が含まれていなければならないとされており、具体的には①結社の自由及び団体交渉権の効果的な承認、②強制労働の禁止、③児童労働の撤廃、➃雇用及び職業における差別の排除、⑤安全で健康的な労働環境を含むことが必要であり、現在、これらを含めた全84項目のチェック項目が監査要求事項項目案として示されているところです。
ちなみに上記①~⑤は、ILO中核的労働基準と呼ばれるものです。通常、ILO条約は加盟国内での批准の手続きを経て当該加盟国に対して発効することになります(批准しなければ発効しないのが原則)が、この中核的労働基準は、批准していない場合であっても「加盟国であるという事実そのものにより、誠意をもって、憲章に従って、これらの条約の対象となっている基本的権利に関する原則を尊重し、促進し、かつ実現する義務を負うこと」が求められており、それだけ重要な労働基準であると考えられている項目です。
「国際的な人権基準に適合し事業を行っていること」の審査事項
国際的な人権基準に適合し事業を行っているかどうかを審査する際には、次のポイントがあります。
- 前掲のリストに記載されている監査・認証のいずれかを取得していること
- (特定技能外国人を受け入れるための)申請を行った時点で、有効期限が3か月以上残っていること
- 受入事業所において取得していること
2つ目の要件があるため、監査・認証を1回だけ受けるということはできず、ほとんどの監査・認証の有効期限が1年と考えるなら、毎年監査・認証を受けなければならないことになります。
また、3つ目の要件は、一つの企業であっても工場が2か所あるような場合、1つの工場のみでの受入れなら監査・認証は受け入れを予定している工場1か所のみで足りるが、2か所とも受け入れるなら2か所とも監査・認証を受けなければならないということを意味します。すなわち、監査・認証は事業所単位、ということです。
育成就労制度にも追加4要件は適用されるのか?
特定技能制度と技能実習制度は根拠となる法律も異なる別の制度です。技能実習制度には、技術移転による国際貢献という制度の目的と実質的な人材確保策として用いられているという実態の乖離その他の問題があり、育成就労制度に発展的に移行することとなっています。(育成就労制度のスタートは2027年度の予定)
育成就労制度は、特定技能制度との関連性を持った制度として設計されており、「育成就労産業分野(育成就労制度の受入れ分野のこと)」において、わが国で3年間の就労を通じて特定技能1号水準の技能を有する人材を育成するととともに、当該分野における人材を確保することが目的となっています。
異なる法律に基づく制度とはいえ、育成就労制度の目的を踏まえると特定技能の受入れにかかる追加4要件が育成就労の段階から適用される可能性はゼロ、とは言えないと思われます。(どちらかといえば、適用される可能性の方が高いと考えざるを得ないのではないでしょうか?)