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ベトナム縫製工場視察

本年2025年12月、たまたまベトナムを訪問し、当地の縫製工場を視察する機会に恵まれた。

ベトナムの縫製工場

わが国で繊維業を営む企業が特定技能外国人材を受け入れる際には、「国際的な人権基準に適合し事業を行っている」という要件を満たす必要があるが、この要件を満たしていることを証明するものの一つに「Japanese Audit Standard for Textile Industry (JASTI) ~繊維産業における監査要求事項・評価基準」の監査を受け、適合している旨の判定を得る方法がある。
JASTIのポータルサイトには、この要求事項が掲載されている。

https://jasti-audit.org/wp-content/uploads/2025/03/JASTI%EF%BC%88%E5%85%AC%E8%A1%A8%EF%BC%89-.pdf

要求事項「分野5労働安全衛生」の具体的な要求事項項目として「5-6火災対策に関する基準(訓練、設備、標識)」というものがあったことから、今回のベトナムの縫製工場でも可能な限りチェックしてみようと思い立った。
企業の担当者が自社の工場内を巡回しつつセールスポイントをPRするとスタイルであったため、遠方からの目視及び移動途中での短時間での確認にとどまることから比較的簡単な項目として消火設備の設置状況について可能な範囲で確認しながら巡回した。

まず、前述「5-6火災対策に関する基準(訓練、設備、標識)」の枝番5-6-2について確認してみた。
5-6-2は「消火器は有効期限内のものであり、圧力が正常な状態に維持されていなくてはならない」とある。消火器に貼付されているラベルの表記は当然ベトナム語であり、内容は理解できなかったが、年月日が二つ表示されていたことから、おそらく製造年月日と有効期限だろうと予想し年月日を見てみた。
すると、遅い方の年月日も訪問日の1年以上前の日付となっていた。おそらく有効期限を超過している消火器だと判断し、通訳さんに表示内容を確認してもらったところ、やはり有効期限切れであることがわかった。

なお、調べてみると日本では製造年と有効年月日(設計標準使用期限)の表示が義務付けられているが、国際基準では必ずしもそうではないらしい(詳細は今回割愛)が、たまたまベトナムにおいては製造年月日または製造年と有効期限(使用推奨期間)の記載が必要とされているらしく、日本の常識で判断した結果が当たったことになる。
ただ、国によって安全衛生に関する規制も異なることから日本の基準だけを背景に判断することの危うさとともに、国際基準、当該国の規制内容を把握することの重要性を再認識した。



枝番5-6-3では「消火器は床に直接おいてはならず、周囲に物が置かれないようマークし周囲から目立つように表示しなければならない。工場所在地の法令に従い、設置の高さや部屋の面積に応じた本数を設置しなければならない。法令の定めがない場合、床面からの高さは1.5m以下に、各フロア、仕切られた各部屋に、100㎡に少なくとも1本以上設置し、階ごとに建物のどこからでも消火器までの歩行距離が20m以内にあるよう、設置しなくてはならない。」とある。
初めてこれを見たときは、ずいぶんと細かい基準だなぁ、という印象を持ったものだが、今回のベトナム訪問を機に調べてみると、国際的な工場における消防設備の設置基準として、最も広く参照され、事実上の国際標準として機能しているのは、NFPA(全米防火協会)規格とのこと。
NFPAでは、作業員がすぐに手に取れるように歩行距離で設置感覚を規定しており、普通火災の場合には方向距離75フィート(約23m)以内とする必要があることがわかった。
JASTIの基準はこれに従った基準であることが理解できたとともに(同時に、わが国の消防法の基準が20m以内となっていることにも適合している)。

グローバル化した今日においては、現地の規制の基本的な理解も当然必要であるが、国際基準を意識した経済活動の必要性がますます高まっていることを再認識でき、いい経験となったベトナム訪問であった。